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札幌高等裁判所 昭和54年(行コ)12号 判決 1980年12月17日

控訴人・原告 石黒世之 外一九名

訴訟代理人 池上徹 外一名

被控訴人・被告 国 外一名

指定代理人 小沢義彦 外七名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは、「原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。本件を札幌地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

二  控訴人らの請求の趣旨及び原因は、原判決記載のとおりであるから、これを引用する。なお、控訴人らは、控訴の理由として、次のとおり主張した。

1  本件訴えは、仮りに併合請求の要件を満たさないとしても、民事事件として訴えの要件を具備しているものであり、控訴人らは、予備的にこれを独立の損害賠償請求民事事件として維持する意思を有していたものである。もともと、取消訴訟と損害賠償請求訴訟とは、別個の訴訟として遂行されるものであるところ、訴訟経済上の考慮からその併合が認められているのであるから、併合の要件を欠く場合には、損害賠償請求訴訟を独立の訴訟として維持するというのが、原告の通常の意思でもある。

2  原判決は、昭和五四年九月二六日に取消訴訟の弁論が終結したとしている。

しかしながら、控訴人らは、右時点では、絶対的に弁論が終結したものとは理解していなかつたものである。すなわち、右取消訴訟につき、原審は、訴訟要件について中間の判断を示すとして、当事者適格が認められる場合には、更に弁論を続行して実質審理に入るとしていたのであり、また、当事者適格についての追加的主張があれば、これを書面で提出するよう求めていた。そこで、控訴人らは、同年一一月五日、当事者適格についての新たな主張を追加する準備書面を提出するとともに、本件訴えを取消訴訟に併合して提起したのである。

したがつて、本件の場合は、取消訴訟につき、訴訟要件のみならず実体上の争点についても当事者の主張、立証が尽くされ、弁論が確実に終結しているのに併合の訴えを提起する場合とは、著しく事情を異にするものである。本件においては、中間裁判により口頭弁論が続行する客観的可能性があり、控訴人らは口頭弁論が続行されることについての合理的な期待を有していたのであるから、控訴人らにおいて、本件訴えを、独立の訴えとして維持する意思を有しながら、訴訟経済上の考慮から、取消訴訟の併合請求として提起したのは、なんら不合理でない。

しかるに、結果的に、右取消訴訟は同年一二月一八日に訴えを却下するとの終局判決がなされ、口頭弁論が続行されないことになつたことから、原審は、本件訴えを独立の民事事件として維持しようという控訴人らの真意をまつたく無視するに至つたのであり、これは公正を欠く不適正な手続きであつて、相当でない。

3  原判決は、本訴は不適法であつて、その欠缺を補正できないから口頭弁論を経ないとしている。

しかしながら、控訴人らは、取消訴訟が不適法として却下されたことを知り得たならば、本件訴えの第一回口頭弁論期日において、その真意に基づき、併合を求めず、独立の民事訴訟として訴えを維持すべく、訴状を訂正して陳述することができ得たものである。

原審は、控訴人らにおいて右のように本件訴えを維持するとの真意を有していることを容易に知り得たにもかかわらず、本件訴えにつき口頭弁論を開くこともなく、取消訴訟につき却下判決をなすと同時に原判決を言渡してしまつたのであり、このため、控訴人らは、本件訴状を補正し、その真意を実現する機会をまつたく持ち得なくなつたのである。よつて、原審が、口頭弁論を経ずに本件訴えを却下したことは不相当である。

理由

一  本件記録及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、控訴人らを原告、北海道知事を被告とする札幌地方裁判所昭和五三年(行ウ)第二号住宅地造成事業計画変更認可処分取消請求事件の関連請求に係る訴えとして、昭和五四年一一月五日、本件損害賠償請求の訴えを右取消請求事件に追加的に併合して提起したものであるところ、同裁判所は、右取消請求事件につき、すでに同年九月二六日の第一〇回口頭弁論期日において弁論を終結していたものであつて、これを再開することなく、右のとおり終結した弁論に基づき、同年一二月一八日、終局判決を言渡したものである。

しかして、地方裁判所に係属中の取消訴訟に、行政事件訴訟法一三条所定の関連請求に係る訴えを併合して提起できるのは、同法一九条一項により、口頭弁論終結のときまでに限られるのであるから、本件追加的併合の訴えは、これを提起し得なくなつた時点において提起されたものとして、すでにこの点において不適法であり、その欠缺は補正し得ないものであることが明らかである。よつて、これを口頭弁論を経ることなく却下した原判決は相当である。

二  控訴人らの主張は、結局、本件訴えにつき、控訴人らは、併合の訴えとして認められない場合には、予備的に独立の訴えとして審理することを求めていたものであるから、これにつき実体上の審理を怠つた原審の手続きは違法であるというに帰する。

しかしながら、控訴人らが原審に提出した本件訴状(「行政事件訴訟法第一九条による請求の追加的併合の訴」と題する書面)には、控訴人らは本件訴えを行政事件訴訟法による関連請求の追加的併合の訴えとして提起するものであるとの趣旨が、疑義をはさむ余地なく表示されているのであつて、右訴状の提出をもつて、本件訴えを予備的にもせよ独立の訴えとして提起したものと解する余地は存しない。したがつて、控訴人らの右主張は、その前提において失当であつて、理由がない。

また、もともと他の事件に併合して審理されるべきものとして提起される訴えは、その併合の要件を欠く場合には、終局判決をもつてこれを却下すべきものであり、これを独立の訴えの提起があつたものと取り扱うべきものではない(反訴につき最高裁判所昭和四一年一一月一〇日判決・民集二〇巻九号一七三三頁参照)。けだし、かかる転換を許容するならば、併合要件を欠くと判断されるに至つた場合に、それまで行われた審理の結果が続いて行わるべき独立の訴えの審理にいかなる効果を有するか等の問題をめぐり、訴訟制度上解決することの困難な混乱をもたらすものであつて、個々的にはかかる弊害をほとんど生じることのない事例が存し得るからといつて、とうてい現行法制度上許容し得るものとは解し得ないからである。この理は、併合要件を欠くときには予備的に独立の訴えとして提起する旨を明示して訴えが提起された場合にも妥当するから、右のような訴えの提起がなされたとしても、かかる訴えは、現行法制度上許容されない予備的申立てとして、これを却下すべきものである。

したがつて、たとえ控訴人らにおいて本件訴えを予備的に独立の訴えとして審理することを求める趣旨を明らかにする機会が原審で与えられたとしても、控訴人らの訴えはその欠缺を補正し得ない不適法なものとして却下されることを免れないものであつたというべきである。このような事情のもとで、原審が、控訴人らにおいて本件訴えにつき予備的に独立の訴えとして審理することを求める意思を有するか否かを確認し、あるいは控訴人らに右の点を明らかにする機会を与える措置をとらなかつたからといつて、そこに釈明権の不行使その他の違法を問われる余地はなんら存しないというべきである。

控訴人らの主張は、いずれの点からみても、なんら理由がない。

三  よつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 輪湖公寛 裁判官 矢崎秀一 裁判官 八田秀夫)

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